高等教育の量的拡大は「教育改革の幻想」?
苅谷氏は、「ゆとり教育」へと舵を切った教育改革は、実体とは異なる過度の受験競争への処方箋としてなされたものである、と指摘しています。
この点を指摘した著書の「教育改革の幻想」(※1)というタイトルは言い得て妙だと思います。
教育再生実行会議の提言を読む度に、「日本政府は高等教育の量的拡大を目論んでいるのだな」、とは思っていましたが、大臣は無償化まで考えていた(※2)そうです。
昨今、世界における日本のプレゼンスや経済的な観点からの危機を煽る言説が巷にあふれているため、大卒者が増えることは何となくいいことのような気がします。
しかし、「教育投資を増やして大卒者を増やすことは、本人にも社会にもメリットが大きい」という考え方は、私には「幻想」にしか思えません。
高等教育の無償化はひとまずおいておくとして、「教育投資を増やして大卒者を増やすことが社会的にメリットがあるのか」、ざっくりと検討してみたいと思います。
【高等教育の拡大は経済(GDP)に影響を与えるのか?】
高等教育への教育投資を増やすことが社会的にもたらすメリットとして最初に思い浮かぶのは、経済的なメリットだと思います。
さて、文部科学省が平成20~22年度に「教育投資の効果分析に関する調査研究」(※3)を実施していたことをご存じの方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?
本調査は、せっかく予算を使って行われたにもかかわらず、教育再生実行会議の提言や各種会議の資料の出典として記載されているのを見たことがありません。
その理由はおそらく、「結果がいまいちだから」だと推測されます。
ざっと目を通したところ、平成20年度調査によると、教育投資に関する先行研究の結果は以下の結論になるようです。
私もCINIIで教育投資と経済効果に関する論文を検索してみましたが、高等教育への進学率とGDPの関係を分析した論文、上記委託調査の結果より踏み込んだ論文を見つけることができませんでした。
また、一人当たりGDPを高等教育進学率と生産人口割合で説明できないかOECDの主要国のデータを使って回帰分析をしてみたのですが、結果は出ませんでした。
一人当たりGDPと生産人口割合の相関も出なかったので、根本的に間違っているようです…
一方、経済財政諮問会議における下村大臣の提出資料の参考資料(※4)を見ると、「教育への投資の効果」の根拠が「研究の一例」と書かれた上で、「教育投資をするといいことがあります」というデータのみになっています。
ゆとり教育時の教育改革と同じにおいがします。
【経済効果以外から考えてみる】
文部科学省調査によると、補習授業を実施している大学は、平成23年度で全体の約46%にもなるそうです。(※5)
このような状況で、大学進学率を上げるとするとどうなるのでしょうか?
補習授業をする大学が増えるだけ、という結果が予想されます。
加えて、理系についてはわかりませんが、文系については、司法関係や会計関係など職業に直結する分野以外、大学教育と仕事において必要な能力にはあまり関係がないと言えると思います。
つまり、大学を出たからといって、個人の生産性が投資に見合うだけ上がるとは思えません。
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このように考えてみると、高等教育の量的拡大に疑問を感じませんか?
個人的には、高等教育の量的拡大については、予算を増やしたい政府の思惑が感じられて仕方がありません。
一市民としてきちんと政府を監視する必要があると思うのですが、素人の私にはこのあたりが限界なので…
誰か続きの検討をしていただけないでしょうか。
※1「教育改革の幻想」を読みました。 - 東京大学を卒業しましたが、
※2予算10兆円増、大学無償化 下村文科相が構想発表:朝日新聞デジタル
※3教育改革の総合的推進に関する調査研究:文部科学省 ←平成20~22年度
※4第9回会議資料 平成26年 会議結果- 経済財政諮問会議 - 内閣府 ←資料2 P9